前々回コメントもいただいたことですし、手持ちの本の中から何か「元気が出る本」をご紹介できたらいいなと考えたのですが、これが意外と難しかったです。
好みが分かれるようなものや、その人の状況によっては合わないな。。。というものが多くて。
結局、これなら自信を持って万人にお勧めできる!と選んだのがこの本。
黒柳徹子さんの『トットの欠落帖』(新潮文庫)です。
黒柳さんは、「神様は、どんな人間にも必ず飛び抜けた才能を一つ与えて下さっている」という言葉を聞いて、自分の才能を見つけるために、手当たり次第にいろんなことを試してみました。
しかし、そのうち、突然気づいたのは、才能があるどころか、むしろ、恐ろしいほどの欠落人間だ!ということだった。。。と書いています。
この本にはそんな黒柳さんの抱腹絶倒のエピソードがぎっしり詰まっています。
「プロ野球の監督にホームランのサインはどうやるのかたずねた」
「俳句歴20年以上だが、どうしても五・七・五におさまらない」
「山中湖のほとりで馬に乗ったら、馬が湖に入ってガバガバ泳ぎはじめたので……」
「黒柳徹子伝説」と称するお話はいろいろありますが、この本が出典になっているらしきものも見受けられます。
久しぶりに再読して、最初の時と同じように笑いました。思い違いやおっちょこちょい、奇妙な体験といったエピソードは誰にでもあるでしょうが、この人の場合はなんというか、質・量ともに飛び抜けています。
そして、本人は人を笑わせるつもりでそうしているのではなくて、いつも大真面目。ちゃんと自分なりの発想とリクツがある。でもなぜかおかしなことになり、「こんなはずでは……」という思いが見え隠れして、だからこそ面白いのです。
TVでの早口の語りとは違った、どこかたどたどしい口調で臨場感たっぷりに事の顛末を語る、その文体もグーです。手つかずで残っている子供の部分が、そのまま表れたような魅力的な文章だと思います。
私がこの本が好きで読むと元気になれて、人にもおすすめしたいのは、笑えるというだけでなく、人間っていいなぁと思わせてくれるからです。
天衣無縫という言葉がぴったりの黒柳さんもすごくいいし、彼女に温かな視線を注いでいるまわりの人たちも素敵です。(向田邦子さんはエッセイのネタにしています。)
欠落という言葉は「あるべきものが抜けている」ということなので、ふつう良い意味に使われませんが、こんな楽しい欠落は、もう魅力そのものでしょう。
ご本人はそういう部分をけっして卑下していないし、自分を笑ったり冷たい目で見た人を悪く言わないし、「才能あふれる私だけどこんなお茶目なところもあるの」的なナルシシズム臭もありません。気持よく読めるポイントはそのあたりにもあるように思います。
この「ありのまま」な感じ、素晴らしいなぁ。こんなふうでいられるのは、ピュアな時期の子供か、そういう感覚を失わずに成長した人か、あるいは本物の大人、かな。。。なんて、遠い目になってしまいました。
天衣無縫という点で、もうひとり昔から注目しているのが平野レミさんです。この人はある意味、黒柳さん以上にツワモノかもしれません。好きです。
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